M a r t i n i q u e 

犬とゴムの木のボート


赤と白のちいさなヴェデッテに
乗って、島を縁どる岸辺を
ゆっくりまわっていく。
人の多いアンス・ミタン、
花に彩られたアンス・ア・ランヌ、
素朴な家々の立ち並ぶ
レ・ザンス・ダルレ。
蝙蝠の住む洞窟にも立ち寄った。
似ているようで
どの海岸沿いの村も違う。
砂浜に置かれたボートのよう。
鮮やかな色合い。けれど、
鮮やか具合が、微妙に違う。
すべての色はみな意味をもつ色。
     

 
           
      犬が必死で泳ぐ。
必死なのに、楽しそう。
それはとてもむずかしい
必死VS楽しいのバランス。
棒を早くもってかなきゃ。
早く誉めてもらわなきゃ。
めざすことは、太陽の陽射しの
ようにシンプルで一直線。
椰子の木の幹にも似た
まっすぐさで、
ナイロンのような透明の海を
泳いでいく。
 
           
      木陰に横たわるボート。
朝いちばんでひと働きしたので、
ひとやすみしている。
見せるためじゃなく、
生活に本当に必要なボート。
それなのにこの色合いというのが
感動だ。こういう色を日常に
ふつうに使う人は、ビルの中に
ふつうに暮らす人とは、
違う星に住むほどに違うはず。
 
           
      ゴムの木のボートの話を聞いた。
ゴムの木でつくられたボートは
完成するまで波の上に
浮かべておく。月の満ち欠けで
数えて、一人前のボートに
なるまで。島のカレンダーは、
いつだって月が仕切っている。
海も人も緑も、月とともに
生きている。
だが月は謙虚なので、
いちいちうるさいことを言わない。
そのぶん誰もが、いつも空を
見上げてくれると知ってるのだ。
 
           
      ヴェデッテが迎えにくる。
揺れる船上にのりこむとき
いつもぱちんと何かが
弾けた気がする。
昼寝から無理やり
起こされたみたいな。
ポワント・ドュ・ブのマリーナには
無数のヨットが 碇泊している。
海の上で、
延々夢を見るうち
寝過ごしてしまった
ひとたちのヨット。
 
  in  Anses `a l`Ane, Martinique        
           


b a c k h o m e island dreams