ハイヒールに蝶々

彼女は 少し派手すぎる靴を履いて
仕事にでかける。
本当にちょっと 派手だなと思う。
プラシド湖やハンター山に行くなら
履きはしないだろう。
でも 仕事に行くには
このくらいでないと だめなのだ。
さもないと 五番街の交差点を渡らず
そのまま引き返してしまいたくなる。
道端に 捨てられたヴィレッジヴォイス。
ぺらぺらのアルミ缶。煙草の吸殻。
なんでも わざと踏みつけて歩く。
勢いよく。とまったらおしまいだから。
けれど 彼女は唐突に 足をとめる。
携帯電話が 鳴ったのだ。
二年間 待ち焦がれたすえ 忘れた声が
聞こえてきた。
彼女の立ち止まる瞬間を
待ちかまえてたように 靴に蝶がとまる。
地下鉄の通風孔から羽化したみたいに
唐突にふわふわあらわれ とまった。
電話は切れた。
彼女はじっと 足元をながめる。
やっぱり派手すぎる。別の女の足みたい。
もときた道を くるりと引き返す。
もう二度と この通りを
北にもどることは ないだろうと
思いながら。


 
 
gentle colors h o m e
   

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